「マフラーを替えたいんですけど、これって車検通りますか?」
整備士として、これは本当によく受ける質問です。そして残念ながら、答えが「通りません」になることも多いです。
結論から言います。2010年4月以降に作られたバイクなら、認証マフラー以外の選択肢はありません。音量が小さければいい、という話ではないんです。
この記事では、マフラー交換にまつわる法令と車検基準を、整備士の立場から順を追って説明します。そのうえで、私が個人的におすすめしているメーカーと、押さえておきたい定番メーカーを紹介します。
この記事でわかること
- 自分のバイクがどの騒音規制の車両なのかを調べる方法
- 年式・排気量ごとの騒音規制値と、2016年以降の「相対値規制」の仕組み
- なぜ認証マフラーを選ぶ必要があるのか(騒音だけでなく排出ガスの話)
- 車検で音量以外に見られているポイント
- おすすめメーカーと、定番メーカーそれぞれの立ち位置
1. マフラー交換で一番多い勘違い
「音が静かなら車検に通る」——これが最大の誤解です。
確かに騒音の規制値はありますし、それをクリアしないと通りません。ただし2010年4月以降に生産された車両については、規制値をクリアしているかどうかではなく、「そのマフラーが認証を受けているかどうか」で判断されます。
どういうことか。2010年4月の規制で、それまでの「近接排気騒音」に加えて「加速走行騒音」が測定項目に追加されました。加速走行騒音というのは、実際に走行して加速したときの音を測るもので、これは車検場では測定できません。専用のテストコースと測定設備が必要だからです。
そこで、「あらかじめ試験を受けて基準に適合していることが証明されているマフラー」であることを、表示で確認する仕組みになりました。これが認証マフラーです。
つまりこういうことです
2010年4月以降の車両では、どれだけ静かなマフラーでも、認証がなければアウトです。
2. まず、自分のバイクがどの規制の車両かを調べる
すべてはここから始まります。年式によって求められるものが完全に変わるので、ここを飛ばして製品を選ぶと確実に失敗します。
判断の基準になるのは生産された時期です。国産車なら製造年月、輸入車なら通関した時期。車検証の「初度登録年月」はあくまで最初に登録された時期なので、在庫期間があると製造時期とずれることがあります。厳密に知りたい場合は、車体番号からメーカーやディーラーに確認するのが確実です。
3. 騒音規制の中身を理解する
3種類の騒音がある
| 種類 | 何を測るか | 車検で測るか |
|---|---|---|
| 近接排気騒音 | 停車状態でエンジンを回したときの、排気口近くの音 | 測る |
| 加速走行騒音 | 実際に加速して走行したときの音 | 測れない(専用設備が必要) |
| 定常走行騒音 | 一定速度で走行しているときの音 | 測れない |
車検で実際に測定されるのは近接排気騒音だけです。だからこそ、車検場で測れない加速走行騒音については「認証を受けているか」で担保する仕組みになっているわけです。
年式・排気量ごとの近接排気騒音の規制値
| 区分 | 平成10年規制以前 | 平成10年規制 | 平成13年規制 | 平成22年規制 |
|---|---|---|---|---|
| 第一種原付 (50cc以下) | 95dB | 84dB | 84dB | 84dB 加速79dB |
| 第二種原付 (50cc超125cc以下) | 95dB | 95dB | 90dB | 90dB 加速79dB |
| 軽二輪 (125cc超250cc以下) | 99dB | 94dB | 94dB | 94dB 加速82dB |
| 小型二輪 (250cc超) | 99dB | 99dB | 94dB | 94dB 加速82dB |
同じ排気量でも、年式が違えば要求される数値が違う。ここが一番ややこしいところです。250ccを超えるバイクの場合、平成13年規制を境に99dBから94dBへ、5dBも厳しくなっています。
5dBの差は「ちょっと」ではありません
デシベルは対数の単位なので、数字の見た目以上に差があります。音のエネルギーで言えば、5dBの違いはおよそ3倍。「たった5」ではないんです。
2016年以降の車両は「相対値規制」になった
平成28年(2016年)騒音規制の車両からは、考え方そのものが変わりました。全車一律の数値ではなく、「その車両の新車時の音より、どれだけ悪化していないか」で判断されます。
具体的には、新車時の近接排気騒音が二輪自動車で89dBを超える車両(第二種原付は85dB超、第一種原付は79dB超)について、新車時の値に対して+5dBまでの悪化が許容されるという基準です。新車時が90dBだった車両なら、95dBまでが許容範囲ということになります。
これは「もともと静かなバイクは、静かなままでいてください」という考え方です。純正が静かなバイクほど、社外マフラーの選択肢はシビアになります。
4. 認証マフラーとは何か
ここが記事の核心です。
認証には2つのルートがある
| ルート | 内容 |
|---|---|
| 政府認証 | 国が定めた手続きにもとづく認証 |
| 登録性能等確認機関による性能等確認 | 国に登録された機関が、基準に適合していることを確認する。二輪ではJMCA(全国二輪車用品連合会)がこれにあたる |
どちらのルートでも、適合が確認されたマフラーには「性能等確認済表示」が付きます。バイク乗りが「JMCAプレート」と呼んでいるあの金属プレートです。車検では、このプレートの有無が確認されます。
JMCAの認定では、騒音だけでなく排出ガス(二輪車モードおよびアイドリングモード)についても、公的試験機関が測定した数値をもとに基準適合が確認されています。つまり認証マフラーを選べば、騒音と排ガスの両方をまとめてクリアできるということです。
バッフルが外せるマフラーは認証されません
インナーサイレンサーやバッフルなど、消音構造が工具で簡単に着脱できる構造のマフラーは、そもそも認証の対象外です。「普段は静かにして、たまに外して楽しむ」という使い方は制度上できません。取り外せる時点で認証が取れないので、そういう製品には認証プレートが付いていません。
買う前に必ず確認すること
- 性能等確認済表示(プレート)が付いているか
- 自分の車両の型式・年式が適合表に載っているか——同じ車名でも年式違いは別物です
- 「レース専用」「公道使用不可」と書かれていないか——書いてあれば公道では使えません
- 触媒が必要な車両で、触媒を含む部分を交換しないか
5. 忘れられがちな排出ガスの話
騒音の話に気を取られて、こちらを見落とす人が多いです。
近年のバイクには排出ガスを浄化する触媒が組み込まれています。この触媒がマフラー側に入っている車両で、触媒を含む部分ごと社外品に替えてしまうと、排出ガス基準に適合しなくなります。音量が基準内でも、これだけでアウトです。
排出ガス規制も年々厳しくなっていて、平成28年(2016年)排出ガス規制、令和2年(2020年)排出ガス規制と段階的に強化されてきました。新しい車両ほど、この部分はシビアです。
逆に言えば、認証マフラーは排出ガスについても試験を通っているので、ここも含めて安心できます。純正から社外に替えるなら、認証品を選ぶのが結局いちばん確実だということです。
6. 車検で見られているのは音だけではない
音量ばかり気にする人が多いのですが、実際の検査ではもっと基本的なところも見られています。
| 見られるポイント | よくある不合格の理由 |
|---|---|
| 近接排気騒音 | 規制値を超えている/認証プレートがない |
| 排出ガス | 触媒を含む部分を交換している |
| 取り付けの確実さ | ステーが折れている、ボルトが緩んでいる、排気漏れがある |
| 突起物 | 鋭利な部分が露出している、車体からはみ出している |
| 車体からのはみ出し | マフラーが車幅や全長からはみ出している |
| 排気の方向 | 後方に向いていない、地面に向いているなど |
整備士のひとこと
意外と多いのが「取り付けが甘くて排気漏れしている」ケースです。ガスケットを新品にせず組んで、しばらく走ってから音が変わってきた、というパターン。マフラーを外したらガスケットは交換する。基本ですが、忘れられがちです。
7. 私が個人的におすすめしているメーカー:オーヴァーレーシング
ここからは製品の話です。まず、私が個人的に一番好きなメーカーを挙げます。
株式会社オーヴァーレーシングプロジェクツ。三重県鈴鹿市のメーカーで、1982年の設立です。創業者の佐藤健正氏は、もともとモリワキエンジニアリングでメカニックを務めていた人物で、独立してこの会社を立ち上げました。1984年の鈴鹿8時間耐久レースに初出場して以降、国内外のレースで実績を積み重ねてきています。
マフラーだけのメーカーではなく、フレームキットやレーシングマシンそのものまで手がけているのが特徴です。オリジナルの車体を作れる会社が作るマフラー、という点に信頼を置いています。
整備士として評価しているところ
- 作りが丁寧で、取り付けで悩まされることが少ない——ステーの位置や寸法がきちんと出ている
- 溶接の質が高い——排気の集合部は熱と振動が集中する場所なので、ここの品質は寿命に直結します
- デザインが車体に馴染む——後付け感が出にくい
正直に言うと、価格は安くありません。ただ、取り付けに苦労しない、長く使える、見た目が破綻しない、という点を合わせて考えると、納得できる買い物だと思っています。
8. 押さえておきたい定番メーカー
マフラー選びで「まずここを見ておけば間違いない」という定番があります。歴史のあるメーカーは、それだけ多くの車種の適合データと認証の実績を持っているということでもあります。
ヨシムラ
株式会社ヨシムラジャパン。神奈川県愛川町。設立は昭和29年(1954年)で、日本のバイク用マフラーメーカーとしては最も古い部類に入ります。創業者の吉村秀雄氏、いわゆる「POP吉村」の名前は、バイクに乗る人なら一度は聞いたことがあるはずです。
二輪・四輪用部品の研究開発、レース参戦、製造、販売までを手がけています。ラインナップの広さが最大の強みで、車種を問わず選択肢が見つかりやすいメーカーです。「サイクロン」という製品名は、もはやマフラーの代名詞に近い存在です。
モリワキ
株式会社モリワキエンジニアリング。三重県鈴鹿市。1973年9月設立。事業内容には「オートバイマフラーをはじめとする、自動二輪・四輪用高性能部品の開発、設計、製造、販売」と、溶接・板金・機械加工によるOEM受託が挙げられています。
加工技術そのものを事業にしている会社だという点は、製品を見るときに覚えておくといいと思います。他社から加工を請け負えるだけの設備と技術を、自社製品にも使っているということです。
アールズ・ギア
株式会社アールズ・ギア。三重県亀山市。1998年11月設立(当初は有限会社、2014年に株式会社へ組織変更)。マフラーとパーツのほか、シートの企画開発、そして3軸・5軸マシニングセンターによる金属加工も手がけています。
大型ツアラー系の車種に強いメーカーという印象を持っている人が多いはずです。
鈴鹿という土地
オーヴァーレーシング、モリワキ、アールズ・ギア。挙げた4社のうち3社が三重県、うち2社は鈴鹿市です。鈴鹿サーキットを中心に、レースの現場と技術者が集まってきた歴史がそのまま産業になっている。日本のマフラーメーカーを見ていると、この土地の存在感に気づきます。
その他の選択肢
上記以外にも、SP忠男、ヤマモトレーシング、BEAMS、TRICK STARといった国内メーカー、AKRAPOVIČ(アクラポヴィッチ)のような海外メーカーがあります。また、ヤマハのワイズギアのように純正アクセサリーとしてラインナップされているマフラーもあり、これは適合と品質の面では最も確実な選択肢です。
どのメーカーを選ぶにしても、確認することは同じです。性能等確認済表示があるか、自分の車両の型式が適合表に載っているか。そして必要であれば排ガス成績証明書が付属しているか。
もしこれが最初のカスタムなら、まずはもっと手軽で失敗しにくいパーツから始めることをおすすめします。マフラーは、バイクの構造にある程度慣れてからでも遅くありません。
整備士のひとこと
それでも、マフラーを替えたときの満足度が高いのは事実です。音が変わると、同じバイクが別の乗り物みたいに感じられる。私自身、その気持ちはよく分かります。だからこそ、ちゃんと合法な状態で、堂々と楽しんでほしいと思っています。
10. まとめ
この記事のまとめ
- 2010年4月1日以降に生産された車両は、認証マフラー(性能等確認済表示付き)以外は使えない
- 車検で測るのは近接排気騒音だけ。加速走行騒音は測れないので、認証で担保されている
- 規制値は年式と排気量の組み合わせで変わる。250cc超なら平成13年規制以降は94dB
- 2016年(平成28年)騒音規制車は、新車時の値+5dBまでという相対値規制
- バッフルが外せるマフラーは認証が取れない
- 触媒を含む部分の交換は排出ガス基準に関わる。認証品なら排ガスも試験済み
- 車検では音量以外に、取り付けの確実さ・突起物・はみ出しも見られる
マフラー交換は、バイクいじりの中でも一番ルールが複雑な領域です。ただ、逆に言えばルールさえ押さえれば、堂々と楽しめるということでもあります。
「認証マフラーを選ぶ」。突き詰めると、初心者が守るべきことはこの一言に集約されます。そのうえで、どのメーカーのどの音が好きかを選べばいい。そこからが楽しいところです。
ご確認のお願い
この記事の内容は執筆時点の情報にもとづいています。騒音規制・排出ガス規制および保安基準は改正されることがあり、また車両の年式・型式によって適用される規定が異なります。実際にマフラーを購入・装着する際は、必ず最新の情報と、ご自身の車両の年式・型式にもとづいて確認してください。
判断に迷う場合は、購入前に販売店や整備工場、または陸運局にご相談ください。当ブログは、本記事の情報を利用して行った作業や購入によって生じた損害について責任を負いかねます。
